犬と羊の事 『伊曾保物語』から

(イラスト作成には生成AI〔ChatGPT〕を利用しました。)

ある時、犬、羊に行きあいて、言うよう、
「汝(なんじ)に負(おお)せける一石(いちこく)※の米を、ただいま返せ。しからずは、汝を失なわん。」と言う。
羊、大きに驚き、「御辺(ごへん)の米をば、借り奉(たてまつ)る事なし」と言う。

■1石(こく)とは?
「1石(いっこく)」は、かつて日本で使われていた体積の単位で、主に米の量を表すのに使われていました。
1石 = 10斗 = 100升 = 1,000合 = 約180リットル
精米された白米に換算すると、約150kg前後

■ 1俵(ひょう)は何kgか?
米1俵=60kg

■ 1石は何俵分?
150kg ÷ 60kg = 2.5俵


犬、「ここに訴人(そにん)あり」とて、狼(おおかめ)ぞ、烏(からす)ぞ、鳶(とび)ぞ というものを相(あい)語らい、奉行(ぶぎょう)のもとへ行きて、この旨を申し争う。


狼(おおかめ)、進み出(い)でて申しけるは、「この羊、米(よね)を借りけること、まことにて侍(はんべ)る。」と言う。


鳶(とび)、出(い)でて申しけるは、「我もその訴人(そにん)にて候(そうろう)」と申す。


烏(からす)もまた同前(どうぜん)なり。


これによって、犬にその理(り)をつけられたり。


羊、詮方(せんかた)無きのあまりに、我が毛を削ってこれに与う。

そのごとく、善人と悪人とは、悪人の かたえ は多く、善人の味方は少なし。

それによって、善人と言えども、その理を枉(ま)げて断らずということありけり。


『伊曾保物語』中の十二

『伊曾保物語』

南蛮文化が流入した時代に、ポルトガルの宣教師たちが布教目的で持ち込んだ書物をもとに、日本語に翻訳・翻案されたものです。
「イソップ」はポルトガル語で「イソポ」→ それが日本語で「伊曾保」と当て字されました。