08.流通の始まり①

財務長官は、王様から受け取った木のお札(ふだ)を両手で持ち直し、じっとみつめています。

ひめさまはにっこりとほほえんで、いいました。
「どうぞ。」

「おそれおおいことです。」財務長官は、お札をひめさまに差し出しました。
ひめさまはそれを受け取り、にこやかに長官の後ろにまわります。
そして、小さな手で、たんとん、たんとんと肩をたたき始めました。

「ひめさま、わたしがやります。」
女官長が静かに近づき、長官の肩に手を置きます。

ひめさまはうなずいて、手にしていたお札を近くにいたメイドに渡しました。そして、静かに言いました。
「彼女の肩を、お願いします。」
メイドはためらいながらもお札を別の人に渡し、女官長の肩をたたきはじめました。

女官長は長官の肩を丁寧にもみほぐしながら、何やらくすくすと話しかけています。
長官はふと微笑み、低い声で言いました。「昔のことを思い出すな。」

そのやり取りの間にも、お札はまた別の手へと渡っていきました。
こうしてお札は、もともとの贈り主の手を離れ、思いもよらぬ相手へと渡っていきます。

このお札「肩たたき券」は、ひとびとのあいだを静かに行き交いながら、やさしい気持ちを伝えていきました。

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