09.流通の始まり②

木のお札は、まるで川をながれているかのように、人から人へと手渡されていきました。

商人が、ふっと遠くを見るように語ります。
「なつかしいですな。うちの子も、これを作ってくれましてね。」
隣にいたもう一人の商人が、笑いながら答えました。
「使おうとすると、決まってイヤな顔をするんですよね。」

二人のやり取りを聞いていた軍人が、そっと手を差し出します。
「どうぞ、肩を」
「これはいい」職員がうなずきます。
「そちらを…」村役人が場所を譲り、
「ああ、いい心持ちだ」町名主が目を細めました。

あちこちで肩に手が置かれ、たんとん、たんとんと、軽く叩く音がゆるやかに響きます。

その輪の中で、お札はゆっくりと、けれど確かに旅を続けていました。

やがて、その小さな板切れは、若手官僚の手に渡りました。
彼はじっと、それを見つめたまま動きません。
その瞳に、何かが灯るように光が差し込みます。

この、シンイチという変わった名前の男は、数年前、まるで風に乗ってきた渡り鳥のようにこの国に現れました。
生まれも経歴も、誰もくわしくは知りません。
けれど、その独創的で現実に根ざした発想が、重苦しい政務の場に新しい風を吹き込み、いつしか王さまや大臣からも一目置かれる存在になっていました。

……金も、銀も、もう無い。

これは、ただの木の板だ。

でも、みんな、これを手渡しして、肩をもんでいる。

このお札(チケット)は、流れている…
人びとの笑顔とともに。

何が、この流れを…

――そうか、これは……!

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