机の上には水差しと茶器が並べられ、席を立つ者、立ち話をする者があちこちに見られます。そこへ、メイドたちがお盆にのせたお茶と小ぶりの焼き菓子を運んできました。
会議室の一角では、商人と軍人たちが集まって、情報の交換をしていました。

物々交換の現状
ある商人が肩をすくめます。
「金貨も銀貨も市場に出回らない、そして銅貨も足りないとなれば、物々交換しかありませんな。」
別の商人もうなずきます。「今は市場で、干し魚と毛布を交換したり、陶器と穀物を交換する光景も珍しくありません。」
「先日は、酒樽と農具一式を引き換える取引を見ましたよ。どちらも現金がなくてね。」
補給担当の陸軍士官が苦笑します。
「国境警備の駐屯地でも同じだそうです。倉庫から物を持ち出して、必要な品と直接交換してます。規律違反すれすれですが、仕方がない。」
それを聞いていた海軍士官が肩をすくめて答えます。
「うらやましい限りです。我々には航海中、余剰など出ませんから。」
「そうかもしれませんが、食事が充実しているのはうらやましい。視察でご招待いただいたときは、正直びっくりしました。」
「食事くらいしか楽しみがないですからね。艦の中では逃げ場もなく、飯がまずければ不満が爆発する。叛乱でも起こされたら大変です。」
商人は感心したようにうなずきました。
「なるほど……軍ごとに“贅沢”の形が違うわけですね。」
メイド控室での噂話
茶器を置き終えた若いメイドが、お盆を抱えて控室に戻ると、先に戻っていた同僚たちが顔を寄せ合っていました。

「ねえ……なんで財務長官さま、裸なの?」
「聞いた話だと、予算の計算で全部間違えて、おかしくなっちゃったんだって。」
「違うわよ。借金取りに服まで取られたって聞いたわ。」
「私はね、王さまへの抗議だって聞いた。『国庫は空っぽだぞ!』って」
「いやいや、熱が出ておかしくなったんじゃないの?」
好き勝手な説が飛び交う中、年配のメイドが肩をすくめました。
「いずれにせよ大変だわ。だって長官さま、裸で目がらんらんとしてるのよ。」
さらに別の年配メイドが、声を潜めて付け加えます。
「宰相さまに『服を着なさい、頭を冷やしなさい』って言われたのに、『興奮してそれどころじゃないんです!』って返してたわよ。」
そのとき、控室の奥で湯気の立つポットを手にしていた新人のメイドが、ぽつりと呟きました。
「……ただ、ぶちきれて服脱ぎ捨てただけだったりして…」
一瞬、全員が黙ったあと、爆笑が起きました。
会議室の外、長椅子の並ぶ回廊
職人組合の人たちも、同じ話題を話していました。

「それにしても……さっきの財務長官、なんであんな格好だったんだ?」
「『あんな格好』どころじゃない。あれは格好じゃなくて、ほぼ無格好だろ。」
「聞いた話じゃ、真珠の値段交渉の前に、例の『正直比べ』をやったらしいぜ。」
「正直比べ?」
「そう。服の下に隠し物をしてないか、互いに確かめ合う古いやり方だ。あれをやると、最後には何も身につけられなくなるということだ。」
別の職人が肩をすくめます。「俺は別の話を聞いたぞ。王さまが『財政は丸裸でなければならぬ!』(トランスペアレンシー:透明性)って演説したら、本気にしたらしい。」
「……それ、比喩だろうに。」
さらに別の一団では、もっと怪しい噂が飛び交っていました。
「いやいや、あの人は昔から交渉の勝負服ってのがあってな。服を着てると気合いが入らないんだ。」
「勝負服が、服じゃないって話か。」
「そういうことだ。」
回廊の端で女官たちが目を合わせ、小声で笑っていました。
「どれもこれも眉唾ね。」
「でも、あの方なら……どれもありそうだから困るわ。」