代用通貨の話題
部屋のあちこちでは、議論が続くあいだにも飲み物や菓子が静かに運ばれてきました。
香ばしい茶の香りが立ちこめる中、商人と軍人たちの話はさらに深まっていきます。
陸軍の補給担当士官が、湯気の立つカップを手にして口を開きました。
「物々交換だけじゃ不便ですからね。駐屯地じゃ、代わりに使える『通貨』がいくつかあるそうです。」
商人が興味深そうに身を乗り出します。
「ほう、どんなものです?」
「インスタントコーヒーのスティックですね。眠気覚ましに重宝するし、一本単位でやり取りできるかららしいです。」
別の商人がうなずきます。
「チョコレートバーの小包装も人気ですな。甘いものは疲れを取りますから」

「うちはジャーキーだな。噛んでる間は腹も気も紛れる。」近くにいた、部隊付きの士官が、笑みをうかべながら話の輪に加わってきました。
話を聞いていた海軍士官がいいました。
「それらの品物は海軍でもあつかってますが、なにぶん船の中ですから代用通貨としてはつかえないんですよ。」
「なぜですか?」と商人が興味深げにたずねます。
「そもそも、兵士が外からものを持ち込めないんです。ですから、艦内で交換もできないのですよ。」
「うちの兵士たちは、外出したときにやってますよ。同じように、上陸した時にやればいいのではないですか?」
「そうもいかないのです。港町に同じような品物が放出されたら、とたんに値崩れしてしまいますから。」
「まさに需要と供給ですな。」と商人。
部隊付きの陸軍士官が、いたずらっぽく笑いました。
「最近、うちではインソールでやりとりしてます。」
商人が目を丸くします。「インソール?靴の中敷きですか?」
「そうです。新品なら長持ちしますし、合わないと足が痛くなるでしょう? 小さすぎても使えないし、大きすぎても切るのが面倒なんです。だから、ちょうどいいサイズのものが、駐屯地ではけっこうな価値になるんです。」
海軍士官が感心したようにうなずきました。「なるほど。みなさんとにかく歩かれますからね。」
補給担当が笑いながら付け加えます。
「ただ、中古はまったく値が付きません。」
「なぜですか?」
「匂いでわかりますから。」
笑いの環がどっと広がりました。
靴をたべる?
その頃、控室に戻ったメイドたちがひそひそ声で盛り上がっていました。
「ねえ聞いた? 国境では靴をかじって暮らしてるんですって。」
「そんなに食べるものないの?」
「うちの国、大丈夫かしら……」
控室の奥で、湯気の立つポットが小さく鳴りました。

噂話が一段落したころ、廊下の向こうから呼び鈴の音が響きました。
「……そろそろ再開だそうよ。」
メイドたちは顔を見合わせ、急いでお盆をかかえていきました。
再び会議室
席についていた人びとが水差しや書類を手元に戻し、ざわめきが次第に収まっていきます。
王さまの席の脇では、宰相が小声で何事かを耳打ちし、王さまはゆっくりとうなずかれました。
そのやりとりを、部屋の隅の椅子に腰掛けていたひめさまも静かに見つめています。

女官長がそっと姿勢を正すよう促すと、ひめさまは小さく頷き、膝の上で手を重ねました。
「そんなものまでお金の代わりになるのね……」
心の中で小さくつぶやきながら、視線を正面へ戻します。
やがて、王さまの声が会議室に響きました。
「……では、続きをはじめようか。」