8-1.貿易の役割

国際的なやりとり

国と国の間(international:国際)では、いろいろなやりとりがおこなわれています。

  • モノのやりとり・・・形のある製品などの「財」の売買です。
  • コトのやりとり・・・形のない「サービス」の売買です。海外旅行などの「体験」を求めるものがこれにあたります。
  • ヒトのやりとり・・・人間の移動です。旅行などの移動の他に、「労働力」としての移動があります。
  • カネのやりとり・・・商品の代金のやりとりのほかに、海外にお金を移動して投資などをおこなう「資本」の移動があります。

「貿易」は、これらのうち、財やサービスなどの商品のやりとり(trade)にあたります。

貿易の役割

人々にとって「役に立つもの」の「みなもと(源)」を「資源」(resource)といいます。この資源は、どこにでも等しく存在することはあまり ありません。その分布は偏っています。よって、人類は、有限の資源をめぐってさまざまな争いをおこなってきています。そしてこの資源を守るため、もしくは 手に入れるために人間は集団をつくっていきました。この集団の大きなものが「国」です。国と国の間で、資源のやりとりを平和的におこなうことが「貿易」の 役割になります。

貿易の役割
貿易は、国際的な経済取り引きの中でも、最も重要なものの一つです。日本は石油や鉄鉱石などの資源を海外からの輸入に依存しており、輸入代金を支払うため には工業製品を輸出して外国の通貨(特にドル)を獲得しなければなりません。人々の生活を向上させるためには輸出を拡大するとともに、輸入も増やしていく ことが必要です。輸出を増やしても、輸入は最低限に切りつめるべきだと考えるのは、収入は増やしても、食料品、衣服、電気製品などへの支出はおさえたほう が生活は豊かになると考えるのと同じです。(145P)

輸出と輸入

貿易は輸出(export:外に運ぶこと)と輸入(import:内に運ぶこと)に分かれます。

  • 輸出・・・海外に商品を売ることによって、お金を儲けことができます。
  • 輸入・・・海外の商品を買うことです。お金が海外に出ていきます。

これらの輸出と輸入の差額が、「貿易収支」(貿易サービス収支)になります。

  • 「輸出輸入」・・・貿易黒字が発生しています。
  • 「輸出=輸入」・・・貿易収支は均衡しています。
  • 「輸出輸入」・・・貿易赤字が発生しています。

(やや難:貿易サービス収支の他に、投資の収益や現物援助などをあわせた「モノ」と「サービス」の全体的なやりとりを「経常収支」(current balance)といいます。)

貿易をおこなうことによって、世界中の資源を利用できるようになり、人々の生活が豊かになる可能性が広がります。

国際分業

国と国の間には、資源の分布の違いがあります。また、人間と同じように、国にも個性の違いがあります。これらの「違い」をうまく組み合わせて、それ ぞれの国が、豊かに持っているものや、作るのが得意なものをやり取りして、お互いに豊かになっていくことを目指すのが「国際分業」です。

(やや難:資源が少ない場合や、作るのが得意なものが少ない場合でも、貿易をおこなうことはできます。これを説明するのが「比較優位」の理論です。)

貿易をめぐる争い

貿易は、もともとは資源の平和的な利用のためにおこなわれるものですが、この貿易をめぐって国と国の間で争いがおこる場合があります。

  • 貿易赤字の問題・・・お金が海外にどんどん出ていくと、国が貧しくなると考える人々が多くなる傾向があります。

(やや難:たしかに、個々の家計や企業の場合、支出が増えて赤字になることは望ましいことではありません。でも、国レベルでみると、 家計や企業の借金が増えるわけではありません。貿易の赤字は、銀行の保有する外国通貨の残高が減ることで、それはかならずしも国が貧しくなることには結びつきません。)

  • 国内産業の保護・・・海外の「安くて高品質」な商品を輸入することは、その国の消費者にとっては望ましいことです。でも、同じような商品を作って いる生産者にとっては問題となります。国が経済発展をスタートした段階では、国内の産業は不安定です。このときに、海外から安くて高品質の商品が入ってく ると、国内の産業は打撃を受けます。
  • ここで、「貿易をどんどん行っていこう」という「自由貿易」と、「国内産業を守ろう」という「保護貿易」の対立が出てきます。
  • 関税の問題・・・国内の産業を保護するために、輸入品には税金として「関税」をかけることが一般的です。この関税の比率をめぐって、相手国との対立がおこる場合があります。
  • 日本を例にとっても、明治時代の不平等条約の改正をめぐる問題、世界恐慌後のブロック経済の影響など、貿易をめぐる問題は大きな政治問題につながるおそれがあります。

この他に、貿易には、別の大きな問題があります。

それは「為替相場」を考えなければならないことです。

→ 8-2.為替相場とは