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調査をはじめてしばらくたってからの様子です。
調査報告書02「名札の力」
○年△月◎日〜◇日
【要約】
調査2日目以降、「いざかや」での勤務を継続し、注文受付・接客・片付けといった一連の業務に参加しました。名前札を着けてからは客とのやりとりが増え、反応の違いや対応の幅広さを実感しました。記録は一部、帰宅後に疲労で書けず、まとめての記述となりました。
【状況】
昼過ぎから夜間帯まで勤務。2日目以降は名札を着用し、ホール業務において一定の裁量を持って対応する場面が増加。常連客・初来店客・団体客など多様な客層の中で、相手によって異なる対応が求められることを学びました。勤務終了後は疲労が激しく、数日分の記録を帰宅後に再整理しました。
「“名前”を持つと、反応が変わる」
名札をつけてから、客の視線や声かけが明らかに増加しました。名前に反応する者も多く、軽口・冷やかし・本気の戸惑いまで様々。匿名性が消えることで、緊張と責任が増す一方、接客の「個人戦」的な側面も強くなると実感しました。
「客は“タイプ”で分けられない」
同じ注文でも対応の仕方は一様でない。黙って待つ人、手を挙げて呼ぶ人、目も合わせず下を向く人──それぞれに合わせた声のトーンや接近距離、視線の置き方などを調整する必要があります。サービス業は定型業務ではなく、即興性が求められます。
「“終わる”時間がない」
勤務終了後、頭の中はしばらく客の顔や返答のタイミングで占められる。報告書を書こうと机に向かうも、眠気に勝てず記録を後回しに。体力と集中力をどう管理するかも、調査を継続する上での課題と認識した。
【発言記録】
- 「ん? 姫さまと同じ名前じゃねえか」…名札を見た中年男性客。目を細めながらこちらをじっと見ていました。
- 「本人じゃねえのか?あんた、まさかな」…酔っていた様子。冗談とも本気ともとれず。
【まとめ】
接客業務は、想像以上に「観察」と「判断」に支えられていると実感しました。名前を明かすことで責任が生まれ、客の振る舞いにも影響が出ます。効率よりも丁寧さ、均質よりも柔軟さが必要であり、それは一日一日違う現場で問われ続けるものでした。
【明日へむけて】
次回はホール外の動き、特に厨房との連携や裏方業務(食器整理、補充作業)などにも注目し、店全体の流れと調和のしくみを観察していきたいと考えています。また、報告書作成の体力確保についても工夫が必要です。机に向かう前に椅子で寝落ちしてしまうのを直したいと思います。
【非公開のメモ】
- 警備の都合で、護衛の者がお客の格好をして備えているのですが、何日かたつと、あきらかに酔っぱらっているではないですか。お酒を飲んでも冷静さを失わない者を厳選したはずですが。
- 同僚の方に聞いたら、名札は本名でなくてもいいとのことでした。私もニックネームとかつければよかったです。
(本記事の内容はフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません。また、イラストは一部、生成AIを利用しています。)