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遅刻してしまいました。
①「ああ!あああ!」
②「すいません!会議が長引きました。」「なんで連絡しないの!」
③「公務だから大変なのはわかるけど、こっちも仕事なんだからね。」
④「まったく…心配させるんじゃないよ…」
調査報告書05「遅刻の理由」
○年△月◎日
【要約】
本日、調査活動開始時刻に遅刻した。理由は公務(予算案審議の延長)であるが、店舗には事前連絡ができず、現場責任者より強い叱責を受けた。個人的には情状酌量の余地があると感じるが、店舗側からは「伝達と配慮の欠如」として受け止められた。社会的現場における「連絡」の意味について、痛感した一日であった。
【状況】
出勤予定時刻を20分ほど過ぎて到着。裏路地を通って急ぎ店舗へ向かう。開店準備が整った店内にて、責任者より即座に問い詰めを受ける。汗まみれのまま謝罪するも、「まずは連絡を入れなさい」との厳しい言葉。頭を下げることしかできなかった。
その後、バックヤードで短い事情説明を行い、制服に着替え業務に合流。以後の対応は通常通りであったが、現場の空気がやや重く、同僚たちの視線にも緊張感があった。
【叱られるということ】
「正当な理由があっても、無断で遅れるのは通用しない」。これが叱責直後に胸に浮かんだ言葉である。王宮では、「上が決めたこと」の通達だけで済むことが多い。だがここでは、ひとつの欠勤が他人の仕事に直接影響する。連絡の重要性を、実感として突きつけられた。
叱責されたとき、自分が王女としてではなく、新人スタッフとして扱われたことに、むしろ安堵のような感情もあった。その安堵が、羞恥と相まって複雑な感情になった。
【背中で語る現場】
・責任者は終始真剣で、私情を交えない口調だった。
・王女としての立場には最大限の理解をしめしてくれた。
・遅刻したことやその理由よりも、連絡を入れなかったことが問題であった。
・他のスタッフは聞こえないふりをしてくれていたが、視線に気遣いがにじんでいた。
・叱責後のフォローは最小限に留まり、「普通に扱う」ことが彼女たちなりの優しさであったようだ。
【考察】
この日を境に、私は「陛下のご来訪」のときとは真逆の形で、現場との関係性が一歩進んだように感じた。叱られたことによって「信用されている」と感じたからである。
遅刻は本来、弁明の余地があっても評価を下げる事態だが、今回はそれを「機会」として受け止めることができた。
今回のような事態が「関係の深化」を促すこともあることがわかった。表面的な接遇や礼儀よりも、誤りのときにどう扱われるかが、実はその場での自分の位置を示しているのかもしれない。
【非公開のメモ】
- 制服に着替えるとき、鏡の前で自分の顔をみたが、汗まみれであることよりも、ひどくこわばっていることが気になった。
- 涙は出なかった。悔しさよりも、責任を感じた。
- 責任者は、叱責後、背中を向けたあと少しだけ肩をゆらしていた。その動きが、なぜかとても人間らしく見えて、救われた気がした。
追加メモ「叱責の後で」
(調査報告書04「遅刻の理由」非公開のメモ補記)
発生事象:心配をおかけしました
制服に着替えバックヤードから出た際、責任者とすれ違いざまにかけられたひと言
「まったく……心配させるんじゃないよ」
それが、今日いちばん胸に響いた。
あのときの声は、もう叱っている調子ではなかった。怒られたのではない。心配されていたのだ。王宮でも、こんな言葉は滅多にかけられたことがない。
(本記事の内容はフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません。また、イラストは生成AIを活用して作成しています。)