「か」ではじまるビジネス、経済学関連の格言や言い回しです。なお、「かね」については別にまとめます。
書いた物が物を言う(かいたものがものをいう)
口で言うだけでなく、書面として残されたものこそが証拠となるということです。
【解説】
経済や法の分野では、契約書や帳簿など「書かれた記録」が決定的な証拠となります。交渉や約束も、書面化されていなければ無効となるケースが多く、信用より文書が重視される時代を象徴することわざです。
買うは貰うに勝る(かうはもらうにまさる)
自分で買った物のほうが、人からもらった物よりもありがたみがあるということです。
【解説】
自力で得た報酬や所有物は、贈与されたものよりも満足度が高く、自己効力感も得られやすくなります。経済的にも「コストを払って得たもの」には使用価値や満足感が伴うため、消費者行動の観点からも理にかなっています。
蝸牛角上の争い(かぎゅうかくじょうのあらそい)
非常に小さくくだらない争いのたとえです。
【解説】
政治やビジネスの現場でも、外から見れば些細で無意味な争いに固執していることがあります。物事を広い視野で捉え、無駄な対立に気づく必要があるという戒めです。
【原文】
「蝸(かたつむり)の左角に国する者ありて触氏と曰い、蝸の右角に国する者ありて蛮氏と曰う。時に相与(あいとも)に地を争いて戦い、伏尸(ふくし)数万、北(に)ぐるを逐(お)い、旬有五日(じゅんゆうごじつ)にして而る後に反(かえ)れり」
〔荘子・則陽〕
→【発展】
カタツムリの角という非常に小さい「ミクロ」なものと、世界という巨大な「マクロ」なものが対比されています。個々人の行動をみるミクロ経済学と、経済全体をみるマクロ経済学という2つの視点があることを、ここでおさえておいてください。
学者の取った天下なし(がくしゃのとったてんかなし)
学問に秀でた者が、現実の政治権力を握ることはめったにないということです。
【解説】
知識や理論だけでは、実際の行動力や人心掌握を伴わない限り、指導者にはなれないという皮肉が込められています。経済学者が政策に助言しても、実権をもつ官僚や政治家が実行する、という現実を示しています。
学問なき経験は経験なき学問に勝る(がくもんなきけいけんはけいけんなきがくもんにまさる)
机上の空論よりも、実地の経験のほうが貴重であるということです。
【解説】
机上の知識よりも、現場で得た経験が物事を動かす力になることを示します。経済分野でも、現場の知恵や市場感覚が、理論だけでなく意思決定に必要であることを強調する格言です。
【英文】
Experience without learning is better than learning without experience.
貸し借りは他人(かしかりはたにん)
金銭の貸し借りは、どんなに親しい間柄でも慎重にすべきであるということです。
【解説】
親兄弟や友人との間でも、お金の貸し借りは感情を壊しやすく、結局は「他人行儀」にすべきだという教訓です。経済的関係が人間関係に悪影響を与える例は多く、金銭は感情を越えた扱いが必要とされます。
苛政は虎よりも猛し(かせいはとらよりもたけし)
過酷な政治は、猛獣の害よりも人にとって恐ろしいということです。
【解説】
政治や制度による圧政が、自然災害以上に人々を苦しめることがあるという寓話です。現代でも重税や規制の理不尽さが経済活動を阻害する例は多く、政策の人道性や実効性が問われる背景となっています。
【原文】
孔子泰山の側を過ぎしとき、婦人墓に哭する者ありて哀し。夫子式して之を聽き、子路をして之に問はしめて曰く、子の哭するや壹に重ねて憂ある者に似たり。而ち曰く、然り。昔者吾が舅虎に死し、吾が夫又死せり。今吾が子又死せり。夫子曰く、何爲れぞ去らざるや。曰く苛政無ければなり。夫子曰く、小子之を識せ、苛政は虎よりも猛きなり。〔礼記・檀弓下〕
稼ぐに追い付く貧乏なし(かせぐにおいつくびんぼうなし)
まじめに働いて稼いでいれば、貧乏は避けられるということです。
【解説】
努力して稼ぐ力があれば、どれほど困窮しても立ち直れるという励ましの意味があります。経済的自立の重要性を説く、勤労と生活の原点に関わる格言です。
←ただ、資本主義の発達した現代社会では、かならずしもこれがあてはまらない状況あります。
渇しても盗泉の水を飲まず(かっしてもとうせんのみずをのまず)
いかなる苦境でも、不正に手を染めないという高潔な態度のたとえです。
【解説】
経済的に困っても、道徳を曲げてまで利益を得ようとしない姿勢が尊ばれています。企業倫理や公務の正直さに通じ、名前や印象だけで「悪」と距離を取る慎重さも描かれています。
【原文】
「渇しても盗泉の水を飲まず。熱けれども悪木の陰に息わず」
〔文選・陸機「猛虎行」〕
合従連衡(がっしょうれんこう)
状況に応じて、同盟や協力関係を縦横に組み替える外交戦略のたとえです。
【解説】
国や企業が、利害関係に応じて戦略的に連携・対立を繰り返す様子を示しています。経済や国際関係の場面でも頻出する語で、したたかな交渉術やリアリズムの象徴とされます。
←ビジネスの世界では、巨大企業に対する戦略をテーマとするときに使われることがある言葉です。
縦の同盟と横の同盟。「従」は縦、「衡」は横。
戦国時代に蘇秦が、南北に並んだ趙・魏・韓・燕・斉・楚の六か国の縦の連盟を組織して西方の強国の秦に対抗させようとした外交政策を合従といい、そののち張儀が六か国を説いて横に秦に服従して、存立を図らせようとした外交策を連衡といいました。
【原文】
天下方に合従連衡に務め、攻伐を以て賢と為す。
〔史記・孟子伝〕
瓜田に履を納れず(かでんにくつをいれず)
疑いを招くような行動は慎むべきであること。
【解説】
他人に疑われるような、まぎらわしい行為は避けたほうがよい、というたとえです。たとえば、瓜畑で靴が脱げても、しゃがんで履こうとすれば盗人と間違われるかもしれません。疑いをかけられるような場面そのものを避ける慎みの姿勢を表しています。
「李下に冠を整(ただ)さず」の句と対になります。
〔古詩源・君子行〕
壁に耳あり障子に目あり(かべにみみありしょうじにめあり)
内緒話はどこで誰に聞かれているかわからない、ということ。
【解説】
秘密にしておきたい話であっても、いつどこで誰が見聞きしているかわかりません。油断をすると、思わぬところから秘密が漏れることもあるため、言動には注意すべきだという戒めのことばです。
【英語】
Walls have ears.
果報は寝て待て(かほうはねてまて)
幸運はあせらずに待つのがよいということ。
【解説】
努力を尽くしたあとは、静かに時機が来るのを待つのがよい、という教えです。焦って行動してもよい結果を招かないこともあるため、運を信じて待つ心のゆとりが大切であることを示しています。
噛ませて呑む(かませてのむ)
他人の苦労の成果を、横から何もせずに手に入れること。
【解説】
自分では何の苦労もせず、他人が努力して成し遂げた成果や利益だけを、自分のものにすることを意味します。他人を利用してうまい汁を吸う、ずるい行為を戒める言葉として使われます。
裃を着た盗人(かみしもをきたぬすびと)
表向きは立派でも、実際は不正を行う者のこと。
【解説】
立派な衣服や地位に身を包みながら、裏では私利私欲のために悪事を働いている者を皮肉ったことばです。外見や肩書きにだまされず、本質を見抜くことの大切さを伝えています。
鴨が葱を背負って来る(かもがねぎをしょってくる)
非常に都合のよいことが重なることのたとえ。
【解説】
ただでさえありがたい存在の鴨が、調理にぴったりな葱まで背負って来た、というたとえです。あまりにうまい話や、自分にとって都合のよい状況を面白おかしく言い表しています。
借りる時の地蔵顔 済すときの閻魔顔(かりるときのじぞうがお なすときのえんまがお)
借りる時は穏やかでも、返す時には不機嫌になる人のたとえ。
【解説】
お金を借りるときにはにこやかにお願いし、いざ返すときになると嫌な顔をするという、人間の自己中心的な心理を示したことばです。貸し借りに対する誠実さの大切さを教えています。
閑古鳥が鳴く(かんこどりがなく)
ひどく寂れていて、人気がないようす。
【解説】
商売や場所などが非常に寂れていて、人の気配がまったく感じられないようすを表しています。集客に苦戦しているお店や、閑散とした状況を風刺的に表現することばです。
勘定合って銭足らず(かんじょうあってぜにたらず)
計算は正しくても、実際にはうまくいかないこと。
【解説】
理論的には合っていても、現実にはうまくいかない、というずれを指摘することばです。計画通りにいかない実情や、制度と現場のギャップなどを表現するときにも使われます。
邯鄲の夢(かんたんのゆめ)
人生の栄華が、はかなく夢のようであるということ。
【解説】
人間の栄光や成功、長寿や富などが、実は夢のように一瞬で消えてしまうはかないものである、という教訓を表しています。人生の無常や栄枯盛衰を語るときに使われます。
盧生(ろせい)という若者が邯鄲(かんたん)という都の宿屋に泊まりました。盧生は、不思議な枕を借りて寝ました。すると、夢を見ました。良い妻を得て、諸侯となり、良い子に恵まれ、富み栄えて、年八十を越えるまで長生きするという、あこがれていた人生の栄華です。目覚めてみるとそれは、宿屋の主人が黄梁(こうりょう:あわ)を一炊きする、ごく短い時間であいだのできごとでした。「盧生の夢」ともいいます。
〔枕中記〕
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